クルーズ旅行記

オベーション・オブ・ザ・シーズ クルーズカジノ騒動記

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オベーション・オブ・ザ・シーズ
クルーズカジノ騒動記

chapter2

船のカジノは竜宮城か

初心者が多い船のカジノではたまにルールがわからない人がいる。船旅のついでに一度やってみようとカジノにチャレンジする人が多いからだ。でもそんな人でも遊べるよう、わからないことはディーラーが教えてくれるし、隣の人も教えてくれる。誰もかれもが親切なのだ。

だが、たまにアドバイスを聞かない人もいる。
ブラックジャックのテーブルでは、インド人が基本に逆らい、片っ端からヒットしていた。そんな彼を初心者かと思い、ディーラーが教えようとするがインド人は構わずヒット。
テーブルは重たい空気に包まれ、みんなすっかり調子を狂わせていた。

すっからかんになった隣の客が去ると、空いた席に女性が座った。
香水の匂いがプンとした。肌も露わな女性である。
視線を向けると目が合った。女優のような顔立ちに心臓がドキドキした。
そういえばここは海の上。
ふと、竜宮城を思い浮かべた。

オベーション・オブ・ザ・シーズのカジノ chapter2 イメージ1
【このブラックジャックのテーブルで起きた】

「ハロー」
声をかけると
「ハンググン?」(韓国人?)
ぼくを韓国人と思ったようだ。
「イルボン・イムニダ」(日本人だよ)
片言のハングルで答えると、彼女は自分を指さし、「ハンググン」といった。なるほど韓国アイドルに似ているわけか。聞けば友達と乗っているらしい。
「韓国にもカジノあるじゃない」
「そうよ。でも行かないの」
「ふうん」
ところでといった様子で彼女は「デーブルはどう?」
「最悪だよ。インド人がデタラメにやってるんだ。ほらあれ見て」
ディーラーが5。インド人は14。ここはステイが鉄則だが、彼はヒットし、来たのは10。また21をオーバーだ。
「彼、ルールを知らないの?」
「ディーラーの手に関係なく自分の手を21にしようとしてばかりなんだ」
「初心者なのかしら? 教えてあげたほうがいいんじゃない?」
「ディーラーが教えても聞かないんだ」
「そうなの?」
「うん、めちゃくちゃだよ」
次のゲーム。インド人は17でディーラーは10。ここもステイしかあり得ない。しかし彼はまたもヒット。来たのは絵札であっさりオーバー。チップは無くなり財布の中身を確認している。そろそろ撤退する気配だ。
彼女は「ちょっとこれ見てて」と、チップを残してテーブルを離れ、まもなく女性を連れて戻ってきた。
何とさらなる美女である。
本当に竜宮城みたいになってきたと思った。

「もうじき彼がやめるから」
そう言ったのもつかの間、インド人が財布から金をポンと出した。
「何よ、まだやる気なの?」美女が口を尖らせた。
「ならばここから賭ければいいよ」ぼくは後ろを指さした。

ブラックジャックでは、席が空いてない場合、座っている客の後ろから重ねて賭けることができる。座った人のチップに重ね、運命共同体となってゲームをするのである。

彼女を後ろに立たせてゲームは再開。
インド人はまたもヒットを繰り返した。それまでならぼくは腹を立てたところである。しかしもはや気にならなかった。そんなことよりももっとすごいことが起きていることに気づいたからだ。
後ろから手を伸ばして賭ける美女の体が、ぼくにピタッと密着するのだ。何とも言えない香水の匂いに、だだでさえうっとりしている上、賭けるたびに美女の体が密着してくる。そんな状況ではゲームに集中しろというほうが無理である。
美女にうっとりし、すっかり気を散らしている間にゲームは淡々と進行する。
こうして夜は更けていった。

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