クルーズ旅行記

オベーション・オブ・ザ・シーズ クルーズカジノ騒動記

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オベーション・オブ・ザ・シーズ
クルーズカジノ騒動記

chapter4

大に賭ければ小、小に賭ければ大。迷ったおじさんの結末は?

クルーズ船はカジノと一心同体だ。カジノまで電車に乗る必要もないしタクシーを飛ばす必要もない。レストランで食事をした後、そのまま歩けばカジノが口を開けて待っているのだ。

この日のカジノにはほろ酔い気分のおじさんたちがいた。高級ワインでも飲んできたのか頬を赤くし上機嫌である。
彼らが陣取っていたのは「大小」だ。
大小とは、ガラスで出来た透明なツボに3つのサイコロが入っていて、それを転がし、出た目の合計が10以下なら「小」、11以上なら「大」というゲームだ。

オベーション・オブ・ザ・シーズのカジノ chapter4 イメージ1
【大小】

ツボは内部が見えないよう黒や金色で蓋をされている。その中でサイコロが振られ、客が賭けた後で蓋を開ける。つまり丁半ばくちと同じである。
遊びかたはとても簡単。大か小かを当てるだけ。当たれば配当は2倍である。日本人にも馴染みやすい、初心者向けのゲームである。

おじさんたちはよほど気分が良いのか景気よく賭けていた。大が幾つか続いた後は小が幾つか続くわかりやすい展開で、結果が出るたび当たった、当たったと喜んでいた。
ところがある時を境に揃って顔をしかめた。なかなか当たらなくなったのだ。
さっきまでは大や小が続けて出ていたが、今度は一転して不規則に出ている。556や566といった大が出たかと思えば223や144といった小が出る。片方の目が続けば賭けやすいが、バラバラでは予想しづらい。

そんなわけでみんなが様子見を決め込む中、ひとり勇敢に賭けるおじさんがいた。だが、大に賭ければ小、小に賭ければ大というようにことごとく裏目になっている。大も小も出る確率は同じなのに常に裏目とは運がない証拠だ。

すると、それを見て仲間がむくむくと動き出した。おじさんの逆目に賭けはじめたのだ。しかもそれがズバズバ当たる。おじさんが小なら仲間は大。おじさんが大なら仲間は小。ゲラゲラ笑う仲間たちに口を尖らせるおじさん。

すると何かに気づいたか、おじさんはそれまで出た数字を興奮気味に指さした。
テーブルにはそれまでのゲーム結果がわかるよう電光掲示板が備えつけらており、おじさんはそこに表示された過去の数字を指さし、
「ゾロ目が出そうだ」
と言った。

ゾロ目とは333や555のように同じ数字が3つ揃うことだ。直前の数ゲームではたしかに2つまで同じ数字が揃っている。そろそろ3つ揃っても良さそうな雰囲気である。

しかしゾロ目などなかなか出ないものだ。2つまではよくあるが、3つ揃いはなかなかない。でも当たりにくいぶん配当も高い。カジノによるが、この船では配当は31倍となっている(1枚のチップに対して30枚の払い戻し。賭けた1枚と合わせて31枚)。

ディーラーが蓋を開けると現れたのは466。ハズレではあるが2つまでは揃っている。次のゲーム。蓋を開けると554。今度も2つ揃っている。ゾロ目まであと一歩だ。
「惜しい!」と叫び、Tシャツなのに腕まくりする仕草を見せ、おじさんは次もゾロ目に賭けた。
しかし、そうは問屋が卸さない。結果はバラバラの数字である。次もゾロ目に賭けたものの出た結果はバラバラだ。次もバラバラで2つすら揃わなくなっている。これが何度か続いたところで「もうやめろ」と仲間が言った。
おじさんは人差し指を立て、「もう一度だけ」とゾロ目に賭けたが、やはり結果はバラバラだ。
「だから言ったろ。ゾロ目はやめろ」
仲間に言われて渋い顔。手元のチップも減ってきた。おじさんはついにギブアップし、深いため息をついて大に賭けた。
そうだよ、それがいいといった様子で友達がウンウンとうなづいた。
ディーラーが蓋を開けた。それと同時におじさんが頭を抱え、うめき声をあげた。
何と111のゾロ目である。
やめた途端にゾロ目が出たのだ。
テーブルに手をつき、うなだれるおじさん。
「肝腎な時に賭けてないのね」と笑う女性ディーラー。
ゲラゲラ笑う仲間たち。
すると次のゲームで、おじさんは気合いを込め、チップを叩き付けるかのようにしてゾロ目に賭けた。
蓋が開けられると、現れたのはまさかの222!
世にも珍しいゾロ目の連チャンだ。
まさかの勝利に沸くテーブル。
ホントに当たったのかとツボを覗き込むおじさん。
たまにはこんな幸運も起きる。だからカジノはやめられない。
それを見ていたまわりの客がおじさんに向かって親指を立てて祝福した。
クルーズ船のカジノでは敵も味方もないのである。

こんな一行を乗せ、豪華クルーズ客船「オベーション・オブ・ザ・シーズ」は太平洋を悠然と航行していた。

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